作家養成コラム

作品集「炎心」コンクール 2019年度受賞作発表・講評

2020.06.16

創作・執筆のヒント

作品集「炎心」コンクール 作品審査について

心斎橋大学33期(2019年)の授賞式は425日に予定しておりましたが、新型コロナウィルスの感染拡大により実施を延期しておりました。613日に、受賞された方にのみお越し頂き、難波利三先生より表彰状と副賞の授与、講評を頂きました。

フィクション部門に68作、エッセイ・ノンフィクション部門に33作の計101作品の提出がありました。

講師陣が審査・投票し、各部門の優秀作品を選出致しました。

フィクション部門最優秀賞1作、優秀賞2作、奨励賞3

エッセイ・ノンフィクション部門:最優秀賞1作、優秀賞1作、奨励賞1作

2019年度 フィクション部門 受賞作

クリックすると、作品をお読み頂けます。講評は、このページ下部をご覧下さい。

●最優秀賞「夏を研ぐ」片岡美登里 さん

優秀賞「お歯黒」片山吉啓 さん

優秀賞「まゆらの血」西川茉那 さん

奨励賞「テミス」久保田浩文 さん

奨励賞「白い鴉」島田敦子 さん

奨励賞「筆の怪物」原田亮 さん

2019年度 エッセイ・ノンフィクション部門 受賞作

クリックすると、作品をお読み頂けます。講評は、このページ下部をご覧下さい。

最優秀賞「同じ幸せを見ていた」山畑由美 さん

優秀賞「ママ」瀬川路史 さん

奨励賞「すかたん」池永恵子 さん

2019年度 フィクション部門 受賞作 講評

受賞作に寄せられた講評の一部をご紹介致します。

最優秀賞『夏を研ぐ』片岡美登里 さん

  • 深刻な内容を無駄のない、そして落語的な面白さで最後まで一気に読むことができました。
  • まず、タイトルが実に秀逸。ひと夏の不思議な思い出を、ミステリアスにそして、ユーモラスに描写して読書を惹きつけます。蝉の鳴き声と包丁を研ぐ音とのアナロジーも見事。会話もリアリティがあって巧い。完成度の高い作品です。
  • 父の奇妙な習癖を軸にして一行の無駄のない、切れ味鋭い創作空間が描き出されている。下手をすると安っぽい落とし話になりかねないが、そうはさせないところに作者の並々ならぬ技量が見て取れる。題名も気持ち良い。感服。

優秀賞『お歯黒』片山吉啓 さん

  • 明治期、日清戦争前後の<時代の空気>を巧みに作品に落とし込んでいます。お歯黒を古き良き日本の象徴として描いたところがお見事。欧米列強と肩を並べようと躍起になる国の変わり様を揶揄する主人公の庶民感覚に共感できました。江戸の下町情緒を彷彿とさせる時代小説のような世界観に通底する<粋>な筆致。締めが秀逸でした。銀とのやり取りをもう少し膨らませてほしかったです。
  • 時代の闇、男と女の闇をお歯黒という表現に昇華させている。表現が的確で美しい。惜しむらくは前半。助吉は必要だったか……。
  • フィクション部門の全作品を見回しても、雰囲気描写という点では、この作品が随一である。今や知る人として少なくなってしまった、奇習とも云うべきお歯黒を材料に、大川の「川開き」や「煮売酒屋」など、明治色や江戸前をうまくちりばめ、恰もお歯黒の酸っぱい匂いが漂って来そうである。

優秀賞『まゆらの血』西川茉那 さん

  • 好悪が別れる作品だと思う。私も作風として好きとは言い難いが読ませる力はある。ただし、厠、金粉で飾られた襖の家と、トイレットペーパー、白いロングスカートの映像が結びつき難い。いったいいつの時代の話なのか。近所の赤ん坊のおむつの匂いを高校生が嗅ぐことがあるのか等、細部の緩さが惜しまれる。
  • 主人公の人生における悲しみ苦しみがうまく切り取られていて、気持ち悪いのにものすごく悲しいというラストへの流れが素晴らしいと思います。
  • 生々しく微妙な題材をここまで探究的に書き込む才能は稀有。感性のきらめく文章が大いに魅力。

奨励賞『テミス』久保田浩文 さん

  • 文章の運びに少し雑な個所があるものの、テーマの強烈さに引き込まれる。タイトルが難所だ。
  • ある時代の松本清張を思い出させる硬派のミステリーである。昨今、裁判所の判決結果にとかく異論が多いなか、主人公の判事は最高裁判所の席を捨ててでも、死刑囚を極刑から守ろうとする。判事の責任はどこまでか、と問いつつも、爽やかな後味を残す秀作である。
  • 司法界の中にある人間臭さがうまく表現されている。骨のある作品。

奨励賞『白い鴉』島田敦子 さん

  • アルビノの白い鴉によって、小さな自分から<脱皮>できた小学生時代の思い出が実に丁寧に綴られています。白鴉を生け捕る場面に焦点を絞り、そこでの主人公のざわめく胸中を極立たせたのがよかったです。一種の心理劇のような作風で、独特な緊張感をかもし出していました。ご自身の体験をベースにしているのでしょうか。リアルに生き生きと描かれていて、清涼感のある物語でした。
  • いじめられっ子とアルビノの鴉という取り合わせが良い。鴉を捕らえる際の描写もリアリティがある。ただラストの夫婦の会話は蛇足ではないか?特に最行の一行が「説明」に墜ちているのが惜しい。
  • 非常に微妙な心理をえがいている。いじめボスは白皮症であるアルビノを狩るゲームに嵌っている。アルビノの白い鴉を森で見たという噂に心配。追うゲームに参加させられ、とうとう白い鴉が見つかる。逃がしてやりたいが出来ない。ボスは捉まえるのに失敗。ホッとして涙を流す。涙の意味を僕は知っている。逃がす行動を取れなかったが白い鴉は無事だった。もしそうでなければ僕は罪の意識から逃れられないだろうから。

奨励賞『筆の怪物』原田亮 さん

  • フィクションならではの発想。文章よりシーンが見える。「世にも奇妙な物語」シリーズに使用できそう。
  • 面白いSF作品。テンポの良い語り口が良い。こうしたものがあってもいいと思います。

2019年度 エッセイ・ノンフィクション部門 受賞作 講評

最優秀賞『同じ幸せを見ていた』山畑由美 さん

  • 日常のひとコマを情感たっぷりに見事に切り取っています。情景描写が丁寧で、その「現場」がイメージとして明確に浮かび上がってきました。猫を愛する青年との目に見えない「糸」を他の人も操っている、その心のつながりが何とも心地よく胸に響きました。落ち着いた筆致。よどみのない文体。レベルの高いエッセイに仕上がっています。最後のくだり、もう少しご自身の気持ちを強調すれば、よりいっそう深みが出たかもしれません。
  • とても幸せな読後感です。文章、構成にも無駄がなく、ことさらドラマチックな演出をせずにこの感動を表現できる技術に感心しました。
  • 読む人のだれもが、幸せを感じる。ほっこりとする良いお話。すこしの不安から、開放される心地良く、ベタベタしない結末がうれしい。
  • 通い慣れた道。ある日、地域猫が大木の傍らのベンチに座る若者の膝に馴れ馴れしく抱かれているのを見て驚く。以後何度か目にするが、その姿が消えた。心配していたある日、ベンチに貼り紙が。若者が、病気になった猫を病院に連れて行き飼い猫にしたというのだ。心配していた主人公や地域住民は安堵する。読み手も心暖かくなった。限られた枚数で起承転結、よくまとまっていた。

優秀賞『ママ』瀬川路史 さん

  • 身近な肉親を書くのは実は難しい。ややもすると思いや感情が前に出過ぎてしまう。しかし、この作品は母親を一人の女として客観的に描けていて、しかも母親に対する思いも行間から伝わってきます。
  • 「ママ」のキャラクターが興味をひく。淡々とした描写が「ママ」の大胆さ、個性を引き立てている。筆者本人は、そんな「ママ」とどう接していたのか「冷たく接する」だけでなく、具体的エピソードが1つ入っていれば更に陰影がついたはず。
  • この作品の半分は小説感覚です。世の中にこれほどまでに生活力に溢れた女性が居ようとは、つくづく口あんぐりです。前篇に昭和20年代のニッポン臭が拡がり、子供の立場からその母性を冷ややかというよりも、解剖でもするように、冷静に文章化する作者のセンスは中々のものです。
  • 破滅志向の厄介な母親像が鮮やかに浮かび上がる。それでも見捨てられない息子の困惑と、沈黙する親子の情愛が行間から滲み出す。おしまいの四行がそれらしく決まっている。
  • 勝気な性格の母親の姿が過不足なく描けていて好感がもてます。唐十郎の短篇「伸子の帰る家」を思い起させる良い作品。
  • 不幸好きな母の生き方を、人間の業というものが操っていると思える面白い作品。最後の4行、ひとり王将で食事している写真が送られてきたという文は、とても良い。

奨励賞『すかたん』池永恵子 さん

  • 明るい文体、ユーモラスなエピソードが読み手をほっとさせる(このご時世、不安感にとらわれている読み手のせいかもしれないが)小、中学生の頃のエピソードよりも後半の方が面白い。夫や兄へ言及は良いが、夫のすかたん愛好家は具体例が必要であろう。
  • 事実をエンターテイメントに昇華する文章力。筆者の周囲の人物に目を向ける温かさも感じる。
  • 「すかたん」という言葉のおもしろさ。「すかたん愛好家」というオリジナリティ。そして「すかたん」な出来事、やっぱりおもしろい。
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