作家養成コラム

作品集「炎心」コンクール 2020年度受賞作発表・講評

2021.07.09

創作・執筆のヒント

作品集「炎心」コンクール 作品審査について

心斎橋大学34期(2020年)の「炎心」には、エッセイ・ノンフィクション部門に32作、フィクション部門に60作の計92作品の提出がありました。

講師陣が審査・投票し、各部門の優秀作品を選出致しました。

エッセイ・ノンフィクション部門:最優秀賞1作、優秀賞1作、奨励賞1作

フィクション部門最優秀賞1作、優秀賞2作、奨励賞4

2020年度 エッセイ・ノンフィクション部門 受賞作

クリックすると、作品をお読み頂けます。講評は、このページ下部をご覧下さい。

最優秀賞『焼針』馬場キヌエ(34期生) さん

優秀賞『悪い奴』林真希子(34期生) さん

奨励賞『爪』賀集律子(32期生) さん

2020年度 フィクション部門 受賞作

クリックすると、作品をお読み頂けます。講評は、このページ下部をご覧下さい。

最優秀賞『品川の拉麺合戦』髙橋英樹(34期生) さん

優秀賞『青空』田中義晃(26期生) さん

優秀賞『娘へ』石井映(32期生) さん

奨励賞『たらちね』天ケ瀬朱美(33期生) さん

奨励賞『父を送る』片岡美登里(33期生) さん

奨励賞『天途城』小池佳子(33期生) さん

奨励賞『僕がここにいる理由』中村久子(34期生) さん

2020年度 エッセイ・ノンフィクション部門 受賞作 講評

受賞作に寄せられた講評の一部をご紹介致します。

最優秀賞『焼針』馬場キヌエ(34期生) さん

  • 凄味を伴う題材の珍しさにまず惹かれる。1行の無駄もない芯の通る文章に確かな描写力が加わり、手際良く捌いて見せる。焼針を打ち込む場面は圧巻、息を呑む。伝承の民間療法としての貴重な資料的価値もあるだろう。読後、思わず感嘆の唸りを漏らした。
  • 焼針という「未知の題材」がユニークでした。主観としての記録でも問題ないのですが「いまは焼針がどうなっているのか」という情報があったり、家族の視点を重複的に入れたりできていると、さらに深みが出たかな、という気がします。
  • 「焼針」という素材が興味深く、また、「焼針」を打つ具体的な例をあげての説明が、分かり良かった。
  • 伝えたいテーマが明確な描写によって強く浮かび上がっている。針を刺す場面の迫力に圧倒された。
  • 現代の医学の中に受け継がれていない東洋の医学。なんとも不思議な治療だが、このような医術が伝わって欲しい。目に浮かぶような描写が素晴らしいと思う。
  • 焼針という珍しい題材を選んだことである程度おもしろさは保証されたでしょうが、夢の描写ののちリアルな手術シーンという流れで、すぐれた幻想小説のような読後感となっています。
  • 先ず、文章に無駄がない。次に、限られた枚数の中、余分な説明が省かれ、時間・空間を飛ばす構成が見事。更に緩急の良さ。臨場感のまにまにぽつんと入り込む自然・情景・心理描写が読み手の気持ちに添う。12歳の忘れられない鮮烈な光景が、生々しく伝わってきた。

優秀賞『悪い奴』林真希子(34期生) さん

  • 人は三歳にして、ある種の「邪悪さ」を体得しているものかと感心する。その三歳児にしてやられる母の、切羽詰まった状況がコミカルに描かれている点が良い。言葉にも余計な修飾がないのも好ましい。16歳になった息子にまたもしてやられるオチも効いている。
  • 可愛さと無邪気な不気味さの対比が面白い。オチが良い。
  • 面白い。前半、ベランダに閉じ込められた過程、構成が巧くできている。子どもへの愛情とともに冷静な観察も見受けられ、特に終わり方が良い。
    今期の作品は、俗に言う「団栗の背比べ」的で、「ハッ」とさせられるほどに抜きんでた逸品はない。反面、駄作めいたものも少ない。1位の理由は、珍しい話では無いが、適当にスリルがあるのと、ユーモアのセンスを買ったからである。
  • 3歳といえども悪知恵には長ける。嘘は吐く、知らぬ・存ぜぬと自分を正当化する。大人顔負けの保身術は十分に芽生えている。愛されていることを十分知りながらの度を超したいたずら。3歳は許されることを計算出来る悪魔でもあり天使でもある。子育てを経験しているものなら十分に共感出来る話だった。

奨励賞『爪』賀集律子(32期生) さん

  • ピアニストの矜持が、サラッとした文体だが丁寧に書けている。終行のまとめも効果的である。
  • 「ピアニストの爪」という着眼点が何よりも素晴らしい。音大生の頃のエピソードは微笑ましく、その「爪」への思いがもう必要なくなった今も続いているというところに、「爪」に仮託した筆者の人生が垣間見えていい作品だと思いました。旧友とマニキュアを塗った指で連弾を夢想するラストも作品に明るさを添えていて好きです。
  • ドラマチックな要素はまったくないにもかかわらず、どこかコミカルな文体で楽しく読めます。ひとりのピアニストの人生が、ふんわりと浮かび上がるような感動がありました。
  • ある特定の人たち(この場合はピアニスト)の感覚を、それ以外の人たちに感情移入できる言葉で伝えることができている。「パンツを下す時に」等の文章によるディテールがいい。

2020年度 フィクション部門 受賞作 講評

最優秀賞『品川の拉麺合戦』髙橋英樹(34期生) さん

  • 「それにしても」が3回出て頻繁な改行も気になるが、悪ふざけに陥る一歩手前で踏み止まり、方言を利かせてユーモアたっぷりに仕上げている。この種の書き手としての才能の片鱗が伺えるよう。
  • 朱舜水がラーメンを振る舞ったという故事をうまく活かして読後感よく仕上げられている。ラーメン合戦という一場面に集約したことが成功の原因かと思う。水戸弁や登場人物のキャラクターなど、下手をすれば軽すぎてしまうところ、「ユーモラス」という範疇に納めたのも、炎心の分量ならではと言える。賄頭が、殿に諫言差し上げねばというくだりは、身分差を考えるといかがなものかではあるが、この物語の中で藩主と心が通じ合っていたということなのだろうと推測しておこう。文中では第二代藩主とだけ表記されていて、それは狙いではあろうけれども、水戸光圀という名前は読者へのサービスとして出しておいても良かったかと思う。
  • 発想が素晴らしい。ユーモア作品として上々の出来。これだけの題材であれば、中編に加筆することをお勧めします。
  • 題材が面白い。軽妙洒脱な筆致で、リズミカル。実に楽しく読めました。前段をもう少し短くし、拉麺のくだりにもっと重点を置けばよかったかもしれませんが、時代小説の匂いを巧みにかもし出しており、無難に仕上げています。ラストで昇華させたところが気に入りました。お見事!

優秀賞『青空』田中義晃(26期生) さん

  • 映像のように光景が浮かぶ。主人公は世間に風穴を開けたのだろう。タイトルをもう少し印象深く一考されてはどうか。
  • ハードボイルド小説の典型である。殺人の為に用意された筈の拳銃が、人の命を救うというブラック・ユーモアが面白い。乾いた文体での省略法が効いている。
  • 型通りではあるが、掌編としての完成度が高い。とくに着地がうまくいっている。

優秀賞『娘へ』石井映(32期生) さん

  • とにかく文章がしっかりしている。聴覚障がいのある妻がよく描けている。
  • 読ませる独白小説です。嫁に出た娘への想いをこんな深みのある世界で表現するとは‥……。筆力がありますね。胸が熱くなりました。亡き妻の障がいをうまくオブラートで包んだところが白眉で、それが涙を誘いました。父親としての愛娘に対するエール、胸に染み入りました。落ち着いた筆致も好感が持てます。
  • 自分の障がいが娘に遺伝していないと知った時の妻の喜び、幸福感がよく伝わる。感動的な作品。
  • 妻亡き後、ひとり娘を育て共に暮らした日々に別れが来た。娘が結婚するのだ。嫁ぐ娘は〈掌中の珠〉。共に過ごした家に、独り取り残された父親の、ひとりぼっちの寂しさが切々と描かれている。ただいま、お休みなさい……等々の日々の挨拶言葉は、独り言になるというラストの父親の思いは切ない。ショートショートとして、余韻は悪くなかった。

奨励賞『たらちね』天ケ瀬朱美(33期生) さん

  • なかなか雰囲気のある文体です。主人公(みち)の実母に対する複雑な心情が見事に表現されていました。結末を書かず、読者の想像に委ねたのがよかった。一体、どうするつもりなんやろ? この読後感が肝になっていますね。流れが良く、すいすい読み入ってしまいました。
  • 五枚という短さで、これだけの奥行きを感じさせる作品に仕上がっているのは見事だと思います。はっきりと結末を描かない終わり方もすばらしいです。

奨励賞『父を送る』片岡美登里(33期生) さん

  • 父が男色だったから離婚になったのだという真実を、後に解るという運命のやさしさを感じた。最後の4行がとても良い。
  • 偶然の出会いから、両親の離婚の真相を知る娘の心情を綴ったもの。母に離婚の原因を何度か問い質すものの「どうしようもないこと、誰が悪いのでもない」が繰り返されるだけ。レストランのウェイトレスをしていて20年振りの父に会う。父親は娘とは解らない。相手の男が、テーブルの父の手にそっと触れたのを見た瞬間、二人の関係を理解。母親の言っていた「どうしようもないこと、誰が悪いのでもない」の理由を理解したのだ。レストランを出て行く父親の後ろ姿を見送る娘の心に、長い間父を憎む気持ちが消えたと信じたい。

奨励賞『天途城』小池佳子(33期生) さん

  • コロナ禍の中、この作品のような情のある対策を政府に願いたい気持ちにさせられる。明るい雰囲気が救いになり、荒唐無稽だと笑えない真実が総理の言葉(大阪弁らしい)から嗅ぎ取れ、胸に響く。
  • こういうことがあればいいな、というお話。国家ではなくて、個人的な事業としてこういうことをしている人物がいて、救われる人々それぞれの事情をじっくり書き込み、ただお金を与えるだけではない救いがもたされるよう工夫すれば、心温まる連作短編として楽しく読めそうに思います。
  • アイデアが良い。ホッとする内容が良い。

奨励賞『僕がここにいる理由』中村久子(34期生) さん

  • 「猫拓」を中心に僕のばあちゃんに対する思いやりが、丁寧に描かれていました。
  • 「猫拓」という発想に何よりも驚き、それを単なる思いつきにとどめることなく、ひとつの作品にうまく結晶させています。墨の黒と雪の白と青空の色彩のコントラストも見事。
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