作家養成コラム
作家養成コラム
2018.03.16
エッセイの書き方こちらは、講師からのアドバイスをもとに、リライトした作品例です。
※提出時と講師からのアドバイスを先にお読みください。
『四十個の目玉』山口有香子
夏休み前、私の友人から頼まれた。子どもがすくってきた金魚が産卵し、今や五百匹、少し引き取ってもらえないかと。さっそく水草、水をきれいに保つジャリなどを買い求め、家にあった水槽に入れて、譲り受けた二十匹の金魚はリビングの一角におさまった。
さて、縁あってうちに来た金魚は、目高ほどの大きさで、まだ色も薄い。大切に育てられたせいか、実にお利口さんだ。夜になるとちゃんと寝ているようだ。朝夕の時間をわかっているらしく、私が近寄ると、金魚たちも寄ってくる。
生きものを飼うことに、「重し」を感じ始めたのはいつからだろう。
物心ついたときから、今までの人生のほとんどは、猫と一緒だった。犬がいたこともある。金魚はもちろん、カメ、ヤドカリ、ハムスター、文鳥、ヒヨコはニワトリになったし、卵を産ませようとウズラも飼った。
子どもの頃、生き物はただ、ともにあるものだった。犬の散歩は私の役目になっていたけれど、行けないときには、母が代わってくれるとわかっていた。
とするとやはり、一家の主婦となってからか。殊に、わが子を育て始めてからは一層、そうなった気がする。
去年、十六年を一緒に暮らした猫に死なれた。悲しみはもちろん大きかったが、「重し」のとれた感覚も、確かにあった。今更はずされても、フワフワ浮き上がって、地に足がつかなくなってしまう。金魚たちを譲り受けたのは、こんな時期をしばらく過ごしたあとだった。
やっと二学期が始まり、昼間は自分の時間がとれるようになった。しかし、一人であっても、背中を見られている。砂粒ほどの大きさでも、四十個となると、結構な圧力となる。目玉がしっぽを振ってわたしに迫ってくる。でも、これくらいの「重し」ならば、ちょうどいいか、と思っている。