受講生の声と実績
受講生の声と実績
「夢の途中」
定年退職し、やっと自分の自由にできる時間ができたとき、浮足立つような楽しい日々を想像した。しかし、趣味が何もない身には、退屈なことに違いないと気付くのに時間はかからなかった。妻の態度も濡れ落ち葉は嫌よ、と語っている。迷い、悩んでいたとき、運命は向こうからやってきた。
駅で、無料の情報誌を手に取り、ページをめくったとたん、記事の隅っこの囲み広告が目に飛び込んできた。心斎橋大学の生徒募集の広告である。
邪悪な虫が騒ぎ、そそのかした。
―― 昔むかし、若かりし頃「印税生活」に憧れていたんだろう。見果てぬ夢を追いかけないのか ――
そして、心斎橋大学に入学した。
甘酸っぱい思いだけで、何を書くか、なぜ書くか、はっきりしたものがないまま、二年が経った。
心斎橋大学の先生は、邪悪な虫に美味しいご馳走をドンドン与えてくれる。栄養満点の御馳走に、邪悪の虫は元気モリモリだ。そのうえ、学友までもが邪悪の虫をくすぐって持ち上げ、面白がる始末だ。お陰で邪悪の虫は、妄想を逞しくし、夢想を繰り返している。
邪悪の虫の飼い主の方も、学校の宿題を夜遅くまで書いているだけで、「作家」とサッカクしたがっている節がある。
心斎橋大学は、老人を「印税生活」に憧れる少年へと変えた。いつまでも夢追い人でいるのが楽しくなった。