受講生の作品

心斎橋大学ラジオシアター

鎌桐ぼたん さん
大学院
24期生(2010年度)
性別:女性

第7話:鈴の道標(みちしるべ)

この作品は、心斎橋大学のラジオドラマコンクールで選出され、2019年5月17日(金)ラジオ大阪にて放送されました。作品募集においての設定は、こちらをご確認下さい。

 

【人物表】

倉嶋翔平(5―20)主人公・大学2回生

三澤優子(15―20)ピアノ教室の娘

倉嶋正彦(50)翔平の父・薬剤師

 

翔平(5)「(泣いている)ここ、どこ……」

 

翔平M「両親が薬局をやり始めたのは、僕が5歳の頃。二人の邪魔にならないように、保育園から帰ると夕食までの間は祖父母の家で過ごしていた。迎えに行くのが遅くなると連絡があったあの日、反対する祖母を押し切って、一人で家まで帰ると飛び出したまでは良かったけれど……ちょうど日が暮れるのが早い時期で道はすでに暗く、僕は曲がる路地を一本間違え、完全に迷子になってしまっていた」

 

  SE 鈴の音が段々と近づいて来る

 

優子(15)「どうしたの? 僕」

翔平(5)「(すすり泣く)お家に帰りたい」

優子(15)「もしかして迷子? どこの子かな? 一緒に探してあげる」

翔平(5)「すみれ町薬局……」

優子(15)「ああ、そこなら知ってる。私、今からお薬貰いに行く所なの」

翔平(5)「おねえちゃん、本当?」

優子(15)「うん。私は優子。真っ暗で怖かったでしょう。そうだ、お守りあげよっか」

 

  SE 鈴の音

 

優子(15)「この音が怖いものから守ってくれるんだよ。さあ、一緒に帰りましょう」

 

翔平M「そう言って差し出された手はとても熱かった。あとで両親に聞いた話では、彼女はピアノ教室の三澤先生の娘さんだったらしい。僕らはそれから会う事もなく、長い月日が流れて行った」

 

  SE 重機や排気音などの工事現場の音

 

翔平M「あれから15年。住み慣れた町は新駅の建設による再開発が始まり、区画整理で大きく変わろうとしていた」

 

  SE 遠くで雷の音

 

翔平M「怖かった路地も、完全に姿を消した」

 

  SE 薬局の入店音

     自動ドアの開閉音(扉が開くと、雨音)

 

翔平「ありがとうございました」

正彦「悪かったな翔平。サークル休んで店、手伝ってもらって」

翔平「母さんが同窓会なんだし仕方ないよ。それにしても、工事の音が響かない日はないね。うるさいのなんの」

正彦「かなり大規模な区画整理事業だからな。道路の向こうの朝日地区も高月(こうづき)地区も、公園墓地のある木綿(もめん)町もすっかり更地だ。計画がちょっとズレてたら、うちだって立ち退きの対象だったかも知れないんだぞ」

翔平「墓場の跡に住みたい人、いるの?」

正彦「どこかの企業の研究所が建つらしい。お前、建築家目指すんだろ? 再開発みたいな大きなプロジェクトに関わってみたいとか思わないのか?」

翔平「別に……普通に家づくりとかで良い」

正彦「(ため息)野心のない奴だな。もう時間だし、そろそろ閉めるか」

 

  SE 奥で電話のコール音

 

正彦「母さんからかな。翔平、雨入らないようにシャッターちゃんと閉めておいてくれ」

翔平「わかった」

 

  SE 雷鳴交じりの雨音

 

翔平「結構降ってるな……」

 

  SE シャッターを閉めかけ、止まる

 

翔平M「いつの間にか、店の前に女の人が立っていた。年齢は僕と同じくらい。傘もささず、困った様子でこちらを見ている」

 

翔平「あ、お薬希望の方ですか。どうぞ。いま薬剤師を呼びますので入って下さい」

 

  SE 店の扉を閉める。

 

翔平「タオルどうぞ。拭いて下さい」

女性「ありがとうございます」

翔平「お薬手帳と保険証、お願いできますか」

女性「……薬は要らないんです」

翔平「えっ」

女性「その……恥ずかしながら。私、迷子になってしまったみたいで」

翔平「迷子?」

女性「今、大人なのに、って思ったでしょ」

翔平「いや、そんな。確かに昔は細い路地が多くて入り組んでて、わかりにくい土地だったんですけどね……あのう、どちらに行かれるんですか?」

女性「朝日地区に。私の家があるんです。道路を渡った先を右に曲がって、少し行った先だったはずなんですけど」

翔平「朝日地区は……」

女性「私の記憶にある町と何もかも変わってて、どうしたらいいかわからなくて。この薬局は昔と変わってなかったからつい、来てしまいました」

翔平「ウチに来たことがあるんですか」

女性「子供の頃に何度か。この家の子が迷子になった時、連れてきたこともあったっけ」

翔平「えっ! あの、それって」

女性「泣いてる男の子、可愛かったなあ」

翔平「それ、たぶん僕の事です。確か……優子さんでしたよね?」

女性(以下、優子)「そう。あなたがあの時の! 大きくなったなあ」

翔平「優子さんもお綺麗ですよ。でも、見た目は僕と変わらないくらい若いなあ……」

優子「お世辞はいいのよ」

翔平「さっきの話。この町は再開発が進んでて。優子さんが住んでいた朝日地区は区画整理で、その……もうないんです」

優子「そんな……!」

翔平「ご両親から聞いてないんですか。多分、もうお引っ越しされたはずですけど」

優子「両親とはずっと会えていないんです。そっか。なら……また探します」

翔平「あの、僕で手伝えることがあれば」

優子「大丈夫。心当たりはあるんです」

翔平「そうですか……あ、そうだ。ちょっと待っててください」

 

  SE 階段を上る音、しばらくして降りてくる

 

翔平「優子さん、手を開いて」

 

  SE 鈴の音

 

優子「この鈴は……!」

翔平「迷子の僕に、優子さんがくれた鈴です。お返しします」

優子「ありがとう……大切にしてくれて」

翔平「あの時の僕みたいに、この鈴が優子さんを守ってくれます。きっとご両親の所へ無事に辿り着けるはずです」

優子「何だか元気出た……私、もう行くね」

翔平「頑張ってください。会えて良かった」

 

翔平M「そう言って差し出した僕の手を、彼女がそっと握った。冷たい手だった」

 

翔平「そうだ、父さんにも優子さんのご両親の事で何かわからないか聞いてみます。もう少し待ってて。すぐ呼んでくるんで」

 

  SE 急いで階段を上る足音

 

翔平「父さん、父さん!」

正彦「何だ翔平。シャッター閉めてくれたか」

翔平「いいからちょっと来て。早く」

 

  SE 豪雨の音

 

翔平M「彼女の姿はなかった。開きっぱなしの出入り口から、雨風が吹き込んでくる」

 

正彦「うわっ何だよ、ずぶ濡れじゃないか」

翔平「さっきまで、優子さんが来てたんだ」

正彦「優子さん?」

翔平「ほら、昔、朝日地区にいた。ピアノの先生の娘さんで……」

正彦「朝日地区……まさか三澤ピアノ教室の? そんな筈ない。あそこの一人娘は十年も前に亡くなってるんだから」

翔平「え……亡くなってる?」

正彦「交通事故で。確か、公園墓地に埋葬されていたから、区画整理の時にお父さんの実家の墓に移すって聞いた気がする」

翔平「いや、だって。確かに来てたんだよ? 『迷子になった』『朝日地区にあったはずの家が見当たらない』って困ってた」

正彦「その話が本当なら、墓を移す時に魂が離れて、置きざりにされたんだろう。だから『迷子』になったんだ」

翔平「ご両親の行き先に心当たりはあるみたいだった。あの時の鈴も渡せたし……」

正彦「そうか。無事に会えればいいな」

 

  SE 雨音に混じって、鈴の音が響く

 

翔平M「遠ざかっていく鈴の音に祈った。どうか、彼女を迷わず大切な人の所へ送り届けてあげて下さい、と」 

 

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