小説家、放送作家、脚本家、児童文学作家、絵本作家の養成スクール[大阪/心斎橋大学]

この作品は、心斎橋大学のラジオドラマコンクールで選出され、2019年5月3日（金）ラジオ大阪にて放送されました。作品募集においての設定は、こちらをご確認下さい。

■人物表

倉嶋翔平（２０）大学２回生・主人公

岡村大輔（２０）大学２回生。翔平の親友で、恋愛には自信を持っている。 

大野響子（２０）他校の大学生。高校時代は翔平、岡村と同じクラスで優等生だった。

 

翔平Ｎ　今日の話は「岡村の恋で、僕が友情を噛みしめる話です。でも、内容はコミカルタッチでーす。今、俺と岡村は自動車教習所の休憩コーナーにいます」

 

岡村　　よお、翔平。

翔平　　おう。

岡村  　どこまで、進んでいる？ 俺、仮免通って、もう路上。

翔平  　え、もう路上に？ いいな。俺はＳ字コーナーで脱輪。あと少しかかるな。

岡村  　そうか、頑張れよ。な、翔平、ちょっと後ろを見てみ。

翔平 　 ん？……　後ろ？ ……。

岡村　　あの子、 同級生だった大野、大野響子だろ？

翔平  　そうかな？ 違ってない？

岡村  　間違いない、絶対だ！ ご飯、賭けてもいいぜ。

翔平  　じゃ、賭けよう岡村。

岡村  　よっしゃ、確かめよう。　

 

ＳＥ  　椅子を引く音。

　　　　二人の足音。

 

岡村  　こんにちは、東高で一緒だった大野さんですよね。

響子  　えぇ、そうです…… もしかして同じクラスの岡村君？

岡村 　 はい、岡村です。こちらが翔平、いや、倉嶋。

翔平  　久しぶり。

響子  　お久しぶり。

岡村  　大野さんって、雰囲気がとても変わりましたね。

響子 　 私そんなに変わった？

岡村  　めっちゃ美人になってない。

響子  　そお、ありがとう。

 

ＳＥ  　放送アナウンスのチャイム。

 

声　　  後５分で、２時限目の教習が始まります。生徒の方は、配車番号の車の前に行って準備をして下さい。

岡村  　大野さん、教習が終わったら、お昼でも行きませんか？

響子  　どうしようかな？　倉嶋君は？

岡村　　翔平も来いよ。

 

翔平Ｍ　その後、俺が財布の中身を気にしているのも知らずに、岡村は勝手に、お洒落なカフェに入ってしまった。　

 

ＳＥ　　大学のグランド横・賑やかで元気な声。「おーい、パス、パス」「走れ！」

　　　　ボールを蹴る音。

 

翔平　　相談って何や？　お金は無いで。

岡村　　お金じゃない、恋や。

翔平　　恋？　それって、岡村の得意分野じゃなかった？

岡村　　今回は、本当の恋や！　俺の力が出せん。だから翔平の能力を借りたい。

翔平　　意味、不明。何で俺の能力が必要なんだ？

岡村　　まだわからんか？　

翔平　　わからん。

岡村　　わからんかー？　その能力だよ。

翔平　　益々、わからん。

岡村　　わからないのが能力だと言っているのに、わかってくれよ。まあいい、俺は大野に恋した。

翔平　　え、大野に？　昨日、会っただけで？

岡村　　そうや、大野の変わりように、俺のハートが射抜かれた。もしも将来、彼女と結婚すれば、

 

響子声　行ってらっしゃい、あ・な・た。はい、お弁当。

 

岡村　　と、笑顔で毎日言われると思うだけで、めっちゃ幸せやし、それと……　

翔平　　わかった、わかった。それで俺は、何をすれば？

岡村　　おお、大野に彼氏がいるか、いないか、だけ聞いて欲しい。俺のことは絶対、内緒やで。

翔平　　はいよ。

 

翔平Ｍ　翌日、俺は教習所へ早めに行き、彼女が来たら、偶然を装って声をかける作戦を立てた。

 

ＳＥ　　近づく足音。

 

翔平　　やぁ。

響子　　あら、今日はひとり？

翔平　　はい。ところで大野って、彼氏いるの？

響子　　え、いきなり？

翔平　　ゴメン。

響子　　あの……　どうして、彼氏いるのと聞いたのですか？

翔平　　どうしてかは、答えられません。

響子　　じゃ、私も答えません。

翔平　　それは困ります。教えて下さい。

響子　　困ると言われても、簡単に教えませんからね。

翔平　　意外と頑固ですね。

響子　　ちゃんと理由を教えてもらえれば、答えますから。

翔平　　ん……　やっぱり、教えられません。

響子　　うふふ、会話が終わりませんね。

翔平　　だよねー。

響子　　倉嶋君は、私に彼氏がいると思う？

翔平　　そう言われても、僕には分かりません。やっぱり教えて下さい。

響子　　倉嶋君、そこは、いる、いない、と答えるべき会話です。それで会話が進むのに。

翔平　　じゃ、いない。

響子　　じゃ、いない事が答えです。

翔平　　はい？　……。

響子　　お返しじゃー。倉嶋君、彼女いる？　正直に答えて。

翔平　　はい、いません。

響子　　倉嶋君って、素直ね。

 

ＳＥ　　大学の学食・食器の触れる音。

「何にする？」「あっちの席で、どう？」などの会話。

 

翔平　　おお、ここ、ここ。

岡村　　よお、翔平！　呼び出して悪かった。ラインの内容じゃ、どうも意味が分からん。この、

 

響子声　じゃ、いない事が答えです。

 

岡村　　と、なっていたが？　本当に、そんな言い方をしたのか？　

翔平　　そうだけど、信用しないのか？　

岡村　　信用はするけど、どんな会話の流れだった？　彼女、俺の話もしていたか？　どうだった？

翔平　　大野に、彼氏いるのと聞いたら、いきなりですかと言われ、そこから会話が変に。それと彼女、岡村のことは、一言も話さなかった。

岡村　　一言もかよ。

翔平　　それで、次の指令は？

岡村　　もういい。ちくしょう、失敗や！

翔平　　まだ付き合ってないのに、失敗って、おかしくない？　

岡村　　さっき、大野からもラインが来てさ、

 

響子声　先日は、ごちそう様。今日、教習所で倉嶋君に会いました。ちょっと聞いていい？　倉嶋君って、本当に彼女いないの？　

 

岡村　　との内容だった。

翔平　　え、どうして彼女は確かめる？　俺は正直に「いない」と答えたのに？

岡村　　お前な、わからんか？

翔平　　何を？

岡村　　お前にも、春が来たんだ。春だぞ。

翔平　　春は、みんなに来ているけど？

岡村　　翔平は、やっぱり翔平だな。大野はお前の方が好きなんだよ。

翔平　　大野が俺のことを……　どうして？

岡村　　俺にもわからんが大野と付き合え！　俺がお前たちの教官役になるから。

翔平　　教官？

岡村　　もちろん、恋の教官や。

翔平　　そんなー。岡村は、それでいいの？

岡村　　いいさ、翔平！　ビシビシと行くで。

翔平　　ビシビシは苦手やなあ。

 

ＳＥ　　街の歩道・車の走行音。

信号機の電子音。

　　　　携帯の着信音。

 

岡村　　もしもし。

翔平　　岡村、俺、倉嶋。

岡村　　何や、翔平。

翔平　　あのさ、大野って美人だろう。付き合ってしまうと、俺が目立たないかな？　どうしたらいい？　

岡村　　お前な、そんな性格は捨てろ！　

翔平　　簡単に捨てられない。

岡村　　じゃ、大野とは付き合うな！　

翔平　　そうする。岡村ありがとう。

岡村　　えっ！　嘘や。

翔平　　俺はその言葉を聞きたかったんだ。

岡村　　あのさ、お前。

翔平　　今は恋より友情。　

了