受講生の作品

心斎橋大学ラジオシアター

マツイ チヨ さん
脚本コース
32期生(2018年度)
性別:女性

第13話:笑顔のチカラ

この作品は、心斎橋大学のラジオドラマコンクールで選出され、2019年6月28日(金)ラジオ大阪にて放送されました。作品募集においての設定は、こちらをご確認下さい。

 

【登場人物】

倉嶋 翔平 (20)

後藤 康孝 (48)店長

村田 和子 (52)パート

佐藤 弥生 (22)先輩バイト

 

SE 商店街の騒めき

 

翔平(N) 俺は最近ラーメン屋でバイトを始めた。今日は大学が休みなので開店前の準備から入ることになっている

 

SE 店の引き戸を開ける

 

翔平 「おはようございます」

村田 「あ、来た来た、翔平君」

翔平 「あれ、村田さん早いですね」

 

翔平(N) ベテランパートの村田さん。一番の古株で、面倒見もいいので、いろいろ教えてくれる。一応、年齢不詳。でも大学生の息子がいる

 

店長 「おぅ来たな翔平。待ってたぞ」

 

翔平(N) この人が店長。長身でがっしりした体格に濃いめの無精ひげ。この強面に最初はビビりまくったけど、働き始めてみたら、いつも笑顔で優しいいい人だった。その店長が俺に紙切れを見せてきた

 

店長 「翔平、お前に特別任務を与えよう」

翔平 「特別任務? 怖いなぁ。何ですか?」

店長 「今度この辺のタウン誌が特集記事にうちを載せてくれることになってな」

翔平 「え、すごいじゃないですか!」

店長 「そこで翔平、君にはうちの広告塔になってもらおうと思う」

翔平 「広告塔? そういうのって店長が出るんじゃないんですか?」

店長 「普通はな。けど、今回のテーマは「頑張る若者」ってことらしいから」

村田 「確かに店長じゃ若者にはならないわね」

翔平 「あ、でも若者なら俺じゃなくても弥生さんがいるじゃないですか」

店長 「弥生ちゃんにも声かけたけど「私、顔出しNGです」って断られたんだよ」

翔平 「えー何ですか、その理由。ずるいなぁ」

 

翔平(N) 弥生さんというのは俺より一年先輩のバイト仲間だ。仕事も早いし頼りになるけど、ちょいちょい手を抜いているのを俺は知っている。今日は休みらしい

 

村田 「私があと30歳若かったらねえ」

店長 「ま、とにかく頼むよ、翔平」

翔平 「あ、でも、俺、写真撮られるのとか結構苦手で…」

村田 「あら意外ね。そういうの、そつなくこなしそうなのに」

店長 「苦手なら練習すればいいじゃないか。よし。じゃあ、今日から特訓だ!」

翔平 「え、何の特訓ですか?」

 

SE 賑わうラーメン店内

 

翔平(N) テーブル5つとカウンター10席の店内。地元の人たちに愛されるラーメン店は、休日の食事時ともなると混雑する

 

翔平 (厨房に)「えっと2番テーブルさん、大盛り1、チャーシュー2、餃子1…」

村田 「翔平君、また眉間にしわが寄ってるよ」

翔平 「あ、すいません。忙しくなるとついつい顔が怖くなっちゃうみたいで…」

店長 「おいおい、そんなんじゃ困るなぁ。常に誰かに見られてると思って笑顔、笑顔。気を抜くなよ」

 

翔平(M) その見られてるっていうか注目されてるって感覚が、目立ちたくないカメレオンの俺としては苦手なんだけどなぁ

 

店長 「ついでに笑顔で写真撮られる練習もしとけよ。ストップモーションだ。はい、7番さんの並盛り。スマイル付きでよろしく」

村田 「そうそう。スマーイル! いいよ、その顔」

翔平 「あ、はい…」

 

SE 賑わうラーメン店内

 

翔平 「いらっしゃいませ。カウンター席へどうぞ」

弥生 「お、いいね、翔平君。笑って笑って」

 

翔平(N) そう言いながら弥生さんが指で写真を撮る真似をした

 

翔平 「ちょっと、何ですか、急に」

弥生 「撮影用に笑顔の練習してるんでしょ?」

翔平 「そうですよ。弥生さんが拒否するから」

弥生 「そういう面倒なことは新人がやればいいのよ。で、どうなの? 笑顔、上手くなった?」

翔平 「うーん、何枚か撮ってみたんですけど、まだちょっと違うんですよね」

弥生 「そう。でも、そんなもんなんじゃない?」

翔平 「え? そんなもんってどういう…」

店長 「5番さんのできたよ」

弥生 「ほら、できたって。行って!」

翔平 「え、また俺ですか? 弥生さん、俺にばっかり行かせて自分サボってません?」

弥生 「練習の成果をお客さんに披露してきなさいよ。麺のびちゃうから、早く!」

翔平 「そういうとこズルいんだよなー」

 

SE シャッターを閉める音

 

翔平 「じゃ、お先に失礼します」

店長 「なんだ? 随分疲れた顔してるな」

翔平 「はい、ちょっと。そういえば店長はいつも笑顔ですね。疲れたぁとか、もう嫌だぁとかないんですか?」

店長 「そりゃもちろんそういう時もあるよ。でもさ、店主がニコニコ楽しそうにやってる方が来てくれるお客さんも気分いいだろ」「

翔平 「あぁそうですね」

店長 「なーんてな。偉そうに言ってみたけど、俺も昔はわかってなかったからな。怒られたんだよ、村田さんに」

翔平 「え?」

店長 「『そんな怖い顔した店主のいる店なんか客も入りづらいから、もっと愛想よくしろ』って。俺ってそんなに見た目怖いか?」

翔平 「いや、えっと、そうかもしれないですね…」

店長 「ははは、やっぱりそうか。自分じゃ全く自覚無いんだけどな。まぁでも、それから意識してニコニコするようにしたら、不思議とお客さんもちょっとずつ増えてさ」

 

翔平(M) 意外だった。この店に、店長に、そんな過去があったなんて。今の姿からは全然想像もつかない

 

店長 「周りからどう見えてるかなんて、案外自分ではわからないもんだからな。ま、いろんな人の意見聞いたりして、ちょっとずつやってきゃいいよ。お疲れ」

翔平 「あ、はい。お疲れ様でした」

 

M ブリッジ

 

翔平(N) そして、タウン誌の取材も無事終わり、後日、その記事が店の前にデカデカと貼られた。そこに写る俺の笑顔は、やはりぎこちなく見えた

 

SE 商店街

 

村田 「いい写真ね」

翔平 「そうですか? 顔ひきつってますけど」

村田 「全然大丈夫よ。素敵な笑顔じゃない」

翔平 「そうですかねぇ。それにしても、こんなに目立つところに貼らなくても」

店長 「宣伝なんだから、みんなに見てもらわないと意味ないだろ」

翔平 「目立つの、本当に苦手なのに」

村田 「何言ってるのよ、今更。何もしなくても目立つタイプでしょ、翔平君は」

翔平 「え? そんなことは…」

店長 「うちに若い男前のバイトが入ったって、商店街の人たち、みんな噂してるぞ」

翔平 「ええ! なんでそんなことに…」

村田 「まったく。この店の男たちは全然自分のことわかってないのね」

 

翔平(N) 自称カメレオン・ボーイの俺は、自分の姿が見えていないのかもしれない

 

店長 「さぁて、今日も笑顔で頑張るぞ、と」

村田 「これからどんどん忙しくなるわね」

翔平 「この記事そんなに効果あります?」

店長 「翔平の笑顔はお客を呼ぶんだよ」

村田 「そうそう。翔平君、スマーイル!」

翔平 「あ…はい!」

 

翔平(N) この日を境に俺はほんの少し変わった

 

作品種類
心斎橋大学ラジオシアター放送作
作品集「炎心」コンクール受賞作
作詞修了作品コンクール
公募受賞作品
修了制作 最優秀賞受賞作品
作品ジャンル
作詞
脚本(ラジオ)
ノンフィクション
小説
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