受講生の作品

心斎橋大学ラジオシアター

三間瀨昂生 さん
ジャンル小説コース
32期生(2018年度)
性別:男性

第10話:熱をだすカメレオン

この作品は、心斎橋大学のラジオドラマコンクールで選出され、2019年6月7日(金)ラジオ大阪にて放送されました。作品募集においての設定は、こちらをご確認下さい。

 

【登場人物】

倉嶋 翔平(20)大学二回生

水原 彩(20)翔平の幼なじみ、二回生

倉嶋 萌(16)翔平の妹、高校二年生

倉嶋 慎吾(23) 翔平の兄、大学院生

山田 一郎(24)テニスサークルの先輩。元テニス部

 

SE  大学のテニスコート。

ボールの音が響く

 

彩 「翔ちゃん頑張って!」

 

翔平(M) 俺は倉嶋翔平、二十歳。建築家志望で、テニスサークルに所属する大学二回生

 

彩 「ああ、翔ちゃん。負けちゃった」

山田 「俺の勝ちだ。倉嶋、ジュースおごれ」

翔平 「わかりました。山田先輩」

山田 「しかし、倉嶋は平凡だなあ。勉強もスポーツもまあまあで……」

 

翔平(M) 成績もスポーツも平凡でどこにでもいる大学生。みんなからはそう思われているし、これからもそう思われ続けるだろう

 

SE  ボールの打ち合いの音

 

彩 「惜しかったね。翔ちゃん。あと少しで勝てたのに」

 

翔平(M) こいつは水原彩、二十歳。俺の幼なじみ

 

翔平 「なに言ってるんだよ。山田先輩にストレート負けしたんだぞ。どこがいい勝負だったんだよ」

彩 「それはそうかもしれないけど。ラリーは長く続いたじゃない」

翔平 「たまたまだ。たまたま」

彩 「でも……」

山田 「みぃーずはらちゃん。今日もかわいいね」

彩 「山田先輩」

 

翔平(N) 先輩の山田一郎は二十四歳。大学四回生。スポーツ推薦で入学したが、腰を痛めてテニス部は退部。その後、テニスサークルに入り、気分次第で来る。今は女好きで有名

 

山田 「彩ちゃーん。これから梅田にでも遊びに行かない?」

彩 「すいません。予定があって」

 

翔平(M) 今、彩を狙って、よく声をかけている。しかし、彩は先輩に好感を抱いていないみたいだ

 

SE  食器の触れ合う音

 

翔平(N) 夕食の準備は俺と兄貴の役目。父さんと母さんは薬剤師で薬局を経営している。一緒に食事することはほとんどない。俺と兄と妹の三人で食事することが多い

 

萌 「それでね。私はこう言ってやったのよ」

 

翔平(N) こいつは妹の萌。十六歳で、医学部志望の成績優秀な高校二年生

 

慎吾 「しかし、それは萌も悪いんじゃないか」

 

翔平(N) これは慎吾兄さん。二十三歳の大学院生。宇宙工学を専攻している。将来の夢は、誰でも宇宙に行けるようにすることらしい

 

萌 「そんなことないって。ねえ、翔(しょう)兄(にい)はどう思うの?」

翔平 「うーん。それは兄さんの言う通りなんじゃないかな」

萌 「翔兄はいつも誰かの意見に賛成して、自分の意見を持たないね」

翔平 「そう?……」

萌 「はあ。まあ、いいわ。それで彩姉ちゃんとはどうなってるの?」

翔平 「どうして急に彩のことが出てくる?」

萌 「だってねえ」

慎吾 「萌の言う通りだな。水原さんとはどうなっているんだ」

翔平 「普通だよ。幼なじみの友達として時々話してるよ」

萌 「ふーん。進展があったら知らせること。それじゃあね」

翔平 「何なんだよ。慌ただしいやつ」

慎吾 「じゃあ、皿洗いをするか」

 

SE  水音。食器の触れ合う音

 

慎吾 「なあ。翔平」

翔平 「なに?」

慎吾 「いつまで、そうやって自分を隠すつもりだ。そんなに注目されて、期待されるのが嫌か」

翔平 「……ごめん。兄さんが言っているイミがよくわからない。俺はこれがいつも通り」

慎吾 「……まあ、いい。お前が本気を出すまで気長に待とう」

 

SE  スマホの着信音

 

翔平 「……彩からか。彩、どうし……」

彩の声 「お願い、助けて、翔ちゃん……」

翔平 「彩! どこにいる!……判(わか)った。すぐ行く。ごめん、兄さん。アト、頼む」と

 

SE  ハプニングバーの騒音

 

翔平(N) 彩は山田先輩の誘いを断り切れず、一度だけという約束で一緒に飲みに行った。だが、入った店はハプニングバーで、そういうことを目的とする人のための場所だった

 

翔平 「先輩。やめましょうよ。そういうことはしない約束で彩を誘ったんでしょうが!」

山田 「なにいってる。水原も乗り気だったぞ」

彩 「そ、そんなことはありません」

翔平 「本人もこう言ってます」

山田 「……気になってたんだが、お前は水原の何なんだ」

翔平 「幼なじみです」

山田 「幼なじみが男女の仲に口出しするな!……そうだ。こうしないか。テニスで俺に勝ったら、水原のことは諦めてやる。だが、俺が勝てば、水原が俺とつきあうというのは」

翔平 「そんなこと……」

彩 「いいですよ」

翔平 「彩!」

彩 「その代わり、勝ったら約束を守ってください! それじゃ、これで」

山田 「今夜のところはさようなら、数日後の彼女さん」

 

SE  テニスボールの音

 

山田 「お前なんか、十分(じゅっぷん)で倒してやるよ」

彩 「しょ、翔ちゃんは負けませんから」

翔平 「それじゃあ、はじめましょうか」

 

SE  サーブの前にボールを弾ませる

 

翔平(M) 言葉とは裏腹に彩は俺が負けるのではと不安そうにしていた。もし負けたら彩は山田の彼女。……俺はため息をついた。あまり、本気を出したくはないんだが、今回は仕方ないか

 

SE  強烈なサーブを叩き込む音

 

SE  夕方の帰り道

 

彩 「先輩。へたり込んでたね。腰の痛み再発かな? いい気味」

翔平 「勝ったのは、たまたまだ」

彩 「翔ちゃんのうそつき! 十分(じゅっぷん)で先輩にストレート勝ち。たまたまなわけないでしょ! 中(ちゅう)・高(こう)テニス部だし、やっぱり翔ちゃんは強かったんじゃない!……」

翔平 「どうした、彩? 突然立ち止まって」

彩 「翔ちゃん……どうして助けてくれるの?」

翔平 「助ける?」

彩 「翔ちゃんが本気を出すのって私が困っているときぐらいじゃない。どうして私を助けてくれるの」

 

翔平(M) 彩の目は熱く潤んで俺を瞶(みつ)める。何を期待しているのか、俺にはわかった。しかし、その答えを俺は言えない

 

翔平 「……幼なじみだからだ」

彩 「……そっか」

 

翔平(M) ちょっと残念そうに彩は目を伏せた

 

彩 「今はそれでいいよ。だけど、きっと違う答えをいつか言わせてみせるからね」

翔平 「どうしたんだ。そんなに近づいて背のびして」

 

 SE  ほっぺにキスをする音

 

彩 「私の感謝の気持ち。じゃあね!」

 

SE  走り去る足音

 

翔平(M) 彩は頬(ほお)にキスして走り去った。……しばらく、呆然(ぼうぜん)とした。事態が呑み込めると、段々頬が熱くなった。胸の鼓動がうるさい。俺は夕日に向かって走り去る彩の背を見続けていた

 

作品種類
心斎橋大学ラジオシアター放送作
作品集「炎心」コンクール受賞作
作詞修了作品コンクール
公募受賞作品
修了制作 最優秀賞受賞作品
作品ジャンル
作詞
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ノンフィクション
小説
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