受講生の作品
受講生の作品
この作品は、心斎橋大学のラジオドラマコンクールで選出され、2019年5月31日(金)ラジオ大阪にて放送されました。作品募集においての設定は、こちらをご確認下さい。
【人物表】
倉嶋翔平
兄・慎吾
妹・萌
母親(34歳)保育園に息子の悠馬を迎えに行った帰り、買い忘れの物を買いにコンビニへ立ち寄る。
悠馬(子供4歳)保育園からの帰り、母親と共にコンビニへ来る。特撮ヒーローモノ「イーレンジャー」が大好き。
男(28歳)
女(28歳)男と女、学生時代から付き合い、気が付けば同棲中。男は定職に就かず、女の稼ぎだけで生活している。
店長「倉嶋くん、もう時間だよ」
翔平「はい、これ片づけたらあがります」
来客音(ピロリロリロ~ン)
翔平「いらっしゃいませ」
店内を悠馬(4歳)がバタバタ走る足音
母親「(強い声で)コラ、悠馬!走らない!」
悠馬「ママぁ~イーレンジャー買ってよ」
母親「昨日買ったでしょ」
悠馬「これ、違うやつ」
母親「ダメよ」
来客音(ピロリロリロ~ン)
翔平「いらっしゃいませ。あ、兄さん帰り?」
慎吾「ああ、通りかかったから、お前いるかなって」
翔平「もう、あがるから。ちょっと待ってて」
慎吾「ビール買うわ。お前も飲む?」
翔平「おごり?めずらしい」
慎吾「何言ってんだ」
翔平「じゃ、俺チューハイレモン」
ガシャーン!と何かが棚から落ちる音
子供(悠馬)の泣き声
悠馬「(泣いている)ウェ~ン!!」
母親「悠馬!もう、何やってんの!」
翔平の走って来る足音
翔平「大丈夫ですか?」
母親「すみません。お菓子、無理に取ろうとしたみたいで」
翔平「いいです。やりますから」
母親「すみません」
悠馬「(ずっと泣いていて)ウェ~ン!」
母親「泣いてる子のとこにイーレンジャーは来ません」
悠馬「(怒りながら泣く)イイイ~ッ!」
母親「怒ってる子のとこにイーレンジャーは来ません」
悠馬「うううっ(無理に泣き止もうする)」
翔平「大丈夫だよ。さぁ、立てる?」
悠馬「ウン」
男「(突如、声)ふざけんな!何疑ってるんだよ」
女「疑ってるんじゃないの、大丈夫かって…」
男「だから大丈夫だって言ってるだろ。なんでいつも『大丈夫?』って聞くんだよ」
女「だって…」
男「だって何だよ」
女「…不安なのよ」
男「何が?何が不安なんだよ?」
女「だから全部…」
男「全部?(イライラして)全部って何?」
女「何もかもよ。あなたのことだって…」
男「俺のこと?」
悠馬「おじちゃん」
男「おじちゃんじゃねぇよ(子供だと気づいて)あ…ゴメン」
悠馬「喧嘩しちゃダメだよ」
母親走って来て、続けて翔平走って来る音
母親「悠馬!すみませんうちの子が…」
悠馬「怒っている人のところにイーレンジャーは来ません」
翔平「そうだね、怒っている人のところにイーレンジャーは来ないね」
悠馬「ウン。ママがさっきボクに言った」
母親「ちょっと悠馬」
悠馬「ママとパパは喧嘩しない。仲いいもん」
翔平「へ~そうなの」
悠馬「ウン」
母親「ヤダもう悠馬(恥ずかしい)イーレンジャー買ってあげるから、あっち行こ」
母親と悠馬の遠ざかっていく足音
翔平「お弁当、温めますか?」
男「え?ああ…」
翔平「そちらも」
女「あ、はい」
レンジの扉が開いて閉まる音
翔平「お箸はどうされます?」
女「あ、二つください」
翔平「はい」
チーン、とレンジの音
翔平「628円です。はい、372円のお返しです。ありがとうございました」
雑踏、車が通る音と二人が歩く靴音
慎吾「大変だな、コンビニのバイトも」
翔平「そうだよ。商品のレジ打ちだけじゃなくて、コーヒーマシンもあるし。チケットの販売やら、宅急便とか…」
慎吾「さっきの客みたいなのもいるしな」
翔平「そうだよ。クレーマーなんかも来るし」
慎吾「お前にしちゃよくやってるよ」
翔平「うん?どういうこと?」
慎吾「お前、日頃からわざと目立たないように生きてるだろ」
翔平「え?(図星)」
慎吾「さっきの見ててさ、久しぶりに翔平を見たっていうか…」
翔平「久しぶり?」
慎吾「子供の対応とか、カップルとか」
翔平「ああ…」
慎吾「お前のさりげない優しさっていうか、もっと自分を出していいんじゃないか」
翔平「そう?それよりさ、びっくりしたよ」
慎吾「何が」
翔平「兄さんプロポーズしてOKもらったんだってな。母さんから聞いたよ。まだ先かと思ってたんだ」
慎吾「亜紗美とは付き合い長いし。そんなにびっくりすることじゃないだろ。それよりお前さ、好きな人はいるの?」
翔平「そこは『彼女いるの?』でしょ?」
慎吾「彼女いないだろが」
翔平「えーっ、言ってくれるじゃん」
慎吾「彼女がいるかどうかより、好きな人がいるかどうかが大事なんだよ」
翔平「ふーん」
慎吾「なぁ翔平、人が一番ドキドキすることってなんだと思う?」
翔平「人が一番ドキドキすること?そうだな、バルセロナの試合でメッシが5人ごぼう抜きしてゴールしたのを見た時かな」
慎吾「ふーん。俺はな、人が一番ドキドキすることって、恋をしている時だと思う」
翔平「ええっ??宇宙ロケットなら判るけど。引くよ。兄さんからそんな話聞くなんて」
慎吾「受け売りだよ。昔、本で読んだんだ」
翔平「やめてよ、聞いてる方が恥ずかしいよ」
慎吾「そうか、でもな、本当にそう思うんだ。気が付いたんだよ。ある日突然っていうか…、さっき、カップルがいただろ」
翔平「喧嘩してた?」
慎吾「そう、たぶんな、気が付いたんだよ」
翔平「仲直りしなきゃいけないってことに?」
慎吾「違うよ。男は将来を考えてない。でも、女の方は将来を考えているってこと」
翔平「そうなの?」
慎吾「お互い気がついたんじゃないかな」
翔平「兄さん、なんか大人。すーごく差が付いて、俺はまだガキのまんま」
慎吾「そんなことないさ。誰だって気づく時がくるさ」
翔平「気づくって?」
慎吾「今までわからなかったことがさ。誰かに教えてもらうわけじゃなく、ある時ふっと気づくんだよ」
翔平「へぇ」
萌「わぁっ!」
翔平・慎吾「びっくりした!」
翔平「萌かよ。脅かすなよ」
萌「男兄弟で何企んでんの?」
翔平「何も企んでなんかいないよ」
萌「怪しい怪しい」
慎吾「今日は早いな」
萌「たまには息抜き」
慎吾「勉強はかどってるか」
萌「うん、やっぱ医学部目指すなんて言わなきゃよかった」
翔平「なんで?」
萌「なぁ~んて、センター試験800点越え」
翔平「うそ?すごいじゃん」
萌「うっそ」
翔平「何だよ。ってお前まだ高二じゃん」
萌「高二向け体験ってのがあるの」
コンビニの袋の音
萌「何?ビールと缶チューハイ?私のは?」
慎吾「お前酒飲むのか?」
萌「飲むわけないじゃん。そうじゃなくて、かわいい妹にシットリショコラでも買って帰ってやろうとか思わないわけ?」
慎吾「ごめん、悪ぃ」
萌「今から買いに行こ。買って、ねぇ買っててば、買ってよー、カッテ~!」
翔平「そんな我儘言うコのところへは、イーレンジャーは来ません」
萌「何それ?もぉ~!」
慎吾「怒っている人のところにイーレンジャーは来ません」
萌「なんなのよそれ?」
翔平と慎吾の笑い声
了