受講生の作品

心斎橋大学ラジオシアター

川中ひとみ さん
大学院
23期生(2009年度)
性別:女性

第11話:一歩、踏み出す

この作品は、心斎橋大学のラジオドラマコンクールで選出され、2019年6月14日(金)ラジオ大阪にて放送されました。作品募集においての設定は、こちらをご確認下さい。

 

【登場人物】

倉嶋翔平(20)主人公。大学建築科2回生

岡村(20)翔平の友人。同じく大学建築科2回生

佐伯(さえき)松子(まつこ)(88)一人暮らしの老婆

倉嶋正彦(50)翔平の父、薬剤師。自宅で薬局を開いている

佐伯(さえき)高志(たかし)(60)松子の息子

老婆(80ぐらい)

町会長(70ぐらい)

テレビのアナウンサー

駅員

 

SE 玄関のインターフォンの音

 

翔平N「俺は倉嶋翔平、大学の建築学科の2回生だ。『高齢者と家』というテーマで、親友の岡ちゃんとレポートを書くことになった」

老婆「(インターフォンから)はい」

 

   SE 引き戸が開く音

 

翔平N「俺たちは、築五十年ぐらいの家が並ぶ古い住宅街で、アンケートを取ることにした」

岡村「こんにちは、あのう、階段や風呂場に手すりなどを、付けられていますか」

老婆「ええ、この頃足が弱ったんでね」

岡村「台所の使い勝手は、いかがですか?」

老婆「去年、リフォームしたところなのよ」

翔平「ご協力ありがとうございました」

 

   SE 門扉が閉まる音 雷が鳴る

 

翔平「雲行きがあやしいな、岡ちゃん急ごう」

翔平N「十軒目は佐伯(さえき)松子(まつこ)さんの家だった。松子さんは小柄な人で、(つえ)を付いていた」

岡村「ご自宅で、お困りな事はありますか」

松子「古いけどうちはこの家で満足してます」

 

   SE 雷鳴、激しい雨の音

 

岡村「ヒャー 急に来たな」

翔平「こりゃ、参ったな」

松子「あんた達、濡れたら風邪引くわ。入りなさい」

 

   SE 玄関の引き戸が閉まる音

 

翔平「ふ~ 助かった」

 

   SE 天井から(ゆか)に雨水が落ちる音

 

松子「ごめん、向こうの風呂場からバケツと洗面器持って来て、早く、そこに!」

翔平、岡村「(戸惑いながら)はい」

 

   SE バタバタとした足音 洗面器にポタポタ雨水が落ちる音

 

松子「良かったわ、あんたらがいてくれて」

翔平N「松子さんの家の(ゆか)や畳は、雨水で濡れていく」

岡村「あのう、雨漏り直さないと……」

翔平「漏電して火事になったり、危険ですよ」      

松子「ええねん、うちは、もうすぐお迎えがくるから、この家と一緒にこのままでええ」

岡村「いや~ まずいですよ、修理しないと」

松子「肝心のモノがないから、仕方ないわ~」

岡村「あのう、ご家族は?」

翔平「岡ちゃん、個人情報は聞いたらダメや」

松子「かまへん、かまへん。近所の人もうちが五年前に詐欺にひっかかって、スッカラカンになったいうことは、皆知ってるから」

 

   SE 水滴がゆっくり落ちる音

 

松子「もう、いややわぁ~ 二人とも深刻な顔せんといて、大丈夫やて」

翔平「僕らに何か出来ることありますか?」

松子「嘘でもそう言うてくれたらうれしいわ。この家、死んだうちの人とローンを組んで一生懸命建てた家やねん。うちは、この家にこうして(い)るだけで、し、あ、わ、せ」

翔平М「ひとり暮らしの松子さんは、憂いもなく晴れやかに笑った」

 

   SE 水滴がさらにゆっくり落ちる音

 

岡村「この大黒柱太くて、立派ですね」

翔平「あっ、高志(たかし)、十歳ってあります、ほら」

松子「それ、一人息子の高志の背丈を計った時の(しるし)やわ。と、言うても、高志はもう六十になるねん。うちは今年で米寿や。あっという(ま)にお婆さん……」

岡村「それって、浦島太郎が玉手箱を開けると、白い煙がもくもく出て年老(としお)いた、みたいにですか?」

松子「そうそう、人生はあっいう(ま)や(笑う)」

翔平М「十畳ほどの和室には、大きな仏壇や亡くなった家族の写真が並んでいた。この家の中には、松子さんの思い出と愛情が溢れている」

 

   SE バケツの水で雑巾を洗う音

 

翔平N「岡ちゃんと俺は、水浸しの(ゆか)や畳を雑巾で拭いて、松子さんの家を出た」

 

   SE 雨戸をたたく風の音

 

翔平N「それから数日が(た)った」

テレビのアナウンサー「三十六年ぶりの強い台風が、深夜零時頃、大阪に上陸します」

正彦「こりゃ、大変や、雨具(あまぐ)、雨具」

翔平「父さん、出掛けるの?」

正彦「ああ、お得意さんに薬を届けにな、頭痛薬が欲しいらしい」

翔平N「わが家は、父と母とで薬局を営んでいる」

正彦「雨風(あめかぜ)の強い日は、(つえ)をついているお客さんは外出できないからな。こんな時は、地域に密着した(みせ)の出番なんだ。-よし、行くとするか」

 

   SE 引き戸を開閉する音 風雨の音

 

翔平М「俺は、松子さんのことが気になった」

 

   SE 電話の呼び出し音

 

翔平「もしもし岡ちゃん、大丈夫かな、松子さん」

岡村の声「翔平も気にしてたんだ。けど、松子さんの家の電話番号もわからないし」

翔平「近くに去年、氾濫した川もあったよな」

岡村の声「誰かが、避難させてくれるだろう、たぶん」

翔平「電車で三十分ぐらいなんだけどなぁ」

岡村の声「俺の(ところ)からは三駅だ」

 

翔平М「俺も岡ちゃんも、一度訪ねただけの松子さんをどうすることも出来ない。誰かが、誰かが、と言いつつ電話を切った」

 

   SE 風雨が激しく、雨戸を叩く音

 

翔平М「あーあ、何をしても集中できない…… -よし、雨具(あまぐ)だ!」

 

   SE 風雨の音

 

駅のアナウンス「本日、台風接近中のため、電車のダイヤは大幅に乱れております」

 

   SE 車が雨水を飛ばす音

 

翔平N「やっとたどり着いた松子さんの家には、(あか)りがついていた」

 

   SE 強い雨風の音に交じり、家から笑い声がする

 

翔平「あれ?」

 

   SE 玄関のインターフォンの音 玄関の引き戸が開く音

 

岡村「翔平じゃないか!」

翔平「岡ちゃん! やっぱり俺の友達だ」

岡村「おい、雨具びしょびしょで近付くなって、あーあ、また濡れた(笑い)」

翔平「あっ、ごめん」

松子「タオル、タオルこれ使こうて。それにしても、二人ともうちを心配して来てくれたやなぁ。ありがたいことやわ、ホンマに(グズン)」

翔平N「松子さんは近所の人と岡ちゃんの説得で、公民館に避難することになっていた」

 

   SE さらに激しい暴雨風の音

 

翔平N「公民館では、松子さんを送って来た俺たちも、温かく迎えられた」

 

   SE 様々な声がコラージュして(「心配してたのよ」「良かったわ」他)

 

町会長「ああ、ついに電車も止まった」

翔平、岡村「(驚き)えー」

松子「町会長さん、えらいことですな」

町会長「そうや、君達も今夜はここに泊まりなさい」

松子「そやな、皆でここに居たら心強いわ」

翔平М「台風が来て大変なのに、松子さんの声は弾み、なんだか楽しそうだった」

 

   SE 朝、鳥のさえずり

 

岡村「松子さん、僕ら家の掃除手伝います」

松子「もうこれ以上甘えたらアカン。あんたらは大学に行って、ええ家を作る勉強やろ」

翔平、岡村「はぁ~」

翔平N「俺らは、松子さんの家が心配だったので送って行った。すると、家の前に男の人が立っていた」

高志「お母ちゃん!」

松子「高志!」

 

翔平М「音信不通だった息子さんが、松子さんを心配して来ていた」

 

   SE 都会の雑踏

 

翔平N「俺たちはその足で大学へと向かった」

翔平「岡ちゃん、俺、判ったよ。家は、そこに住んでいる人の人生というか、魂が詰まっているんだって」

岡村「俺、設計のことばかり考えていたよ」

翔平「今回のことで住む人を幸せにする、暖かく憩える家を作りたくなったよ」

岡村「あっ、それ、俺も同じ、言いたかったことだ」

翔平「俺達、建築家として一歩踏み出したかもな」

岡村「ああ、まだまだ先は長いけどな」

翔平「俺、岡ちゃんとなら、やれそうだよ」

岡村「何だそれ、愛の告白かよ~」

翔平「バカか~ なんでそうなるンだ」

翔平、岡村「(笑い声)」

 

   M   終わり

 

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