受講生の作品
受講生の作品
この作品は、心斎橋大学のラジオドラマコンクールで選出され、2019年6月21日(金)ラジオ大阪にて放送されました。作品募集においての設定は、こちらをご確認下さい。
【登場人物】
倉嶋翔平 20才
岡村純一 20才 翔平の親友
山口恵美 20才 純一の恋人
SE 大学のテニスコート・ラリーの音
岡村 (遠くから)「翔平、帰るよ。」
翔平 「岡ちゃん、ネット片付けたら、すぐ後を追うから。」
SE 喫茶店の扉が勢いよく開く音
映画音楽 FI ~FO
山口 「翔平さん、こっち」
翔平 「ごめん、遅くなって。あれ? 山口さんひとり。岡ちゃんは?」
山口 「彼ね、急にバイトだって。」
翔平 「バイト? 火木土以外は、しないはずだけど……」
山口 「うん……。今日さ、バイトの二人が風邪で休んでて、店長からさっき電話で。岡ちゃん、人がいいから。私、そんな彼が好きなんだけどね。」
翔平 「大丈夫かな。もうすぐテニスの試合だし、明日は朝練……まさか、山口さん、初めから岡ちゃん呼んでなかったんじゃないの?」
山口 「……」
翔平 「俺、帰る。」
山口 「ごめん。嘘つくつもりはなかったんだけど。翔平さん、私だけと知ったら、来てくれなかったよね。」
翔平 「で何の用。」
山口 「テニスサークルの地区大会、来週なんでしょ。それで代表五人が、明日の対戦で決まるって、岡ちゃんが……」
翔平 「そうだけど?」
山口 「だから、ふたりが選ばれるように、これ必勝祈願のお守り。これは純一さんの分で、はい、翔平さんのも」
翔平 「俺はいらない。代表に残れたらよし、外れたとしてもそれはそれ。この倉嶋翔平には、お守りなんて必要なし。それに、山口さん、渡す順序間違ってるよ。先に岡村純一君でしょ。」
山口 「分ってる。本当は、彼のことでちょっと話したいことがあって。岡ちゃんからは、誰にも言わないで、特に翔平さんにはと口止めされたんだけど。」
翔平 「待って、聞きたくない。都合よく生きてる俺でも、親友を裏切ることはしない。」
山口 「聞いて。彼ね、今回テニスの代表に残れなかったら、サークル止めるんだって。」
翔平 「ええ? 俺をテニス部に誘ってくれたあの岡村純一君が。大会なんて気にせずに、一緒に楽しもうって。」
山口 「でも、翔平さんは、楽にやっても、何度か代表に選ばれてるでしょ。けど、彼はせいぜい補欠止まり。自信なくしても仕方ないと思うのよ。」
翔平 「それで、俺にどうしろと言うの。」
山口 「いや別に。ちょっと誰かに話したかっただけ。聞かなかったことに。」
翔平 (不機嫌に)「ああ。」
CI テニス場、ラリーの音。時おり「うっ」「うっ」など力む声
翔平 「お互いに勝ち抜いてきた結果、俺か岡ちゃんのどっちかが代表なんて」
岡村 「元はといえば、クジで翔平と同じグループになったことが不運だったんだ。」
翔平 「地区大会への出場枠が、あと一人だからな。俺たちふたり一緒に出たかった。」
岡村 「そういえば、これまで翔平と真剣に勝負したことなかったな。」
SE「倉嶋翔平君、岡村純一君」と呼ぶ声
岡村 「翔平、いいか、どっちが勝っても、恨みっこなしだ。」
翔平 「おお!」
SE テニス、ラリーの音
ポイントを伝える声「ワン・スリー」
(ブリッジ)
SE 自転車のペダル音。時折ブレーキの音
岡村 「ほんとに俺、翔平に勝てたんだよな。地区大会のメンバー入り?」
翔平 「そうさ。岡ちゃんの強烈なストロークで、しかもコーナーぎりぎりに打ち込まれたんじゃ、手も足も出なかった。」
岡村 「翔平、そこまで褒められたら、嘘っぽいよ。」
翔平 「先輩もびっくりしてたよ。岡村恐るべしって。」
岡村 (照れて)「そうか。……あのな、俺、今回代表に残れなかったら、サークル止めるって決めてたんだ。」
翔平 「俺を置いて? 裏切りだ。」
岡村 「悪い!」
翔平 「頑張れよ、俺も応援席で、一緒に戦うからな。」
岡村 「翔平の自転車、そんな色だった?」
翔平 「パンクしたから、兄貴の自転車、黙って借りてきた。早く帰って戻さないと。じゃ明日な。」
SE 自転車をこぐ音、離れて行く。
岡村 (独白)翔平って、何であんなにいいやつなんだろ。ほんとにありがとう
(ブリッジ)M
SE テニス大会の賑やかな雰囲気
ラリーの音、点数を伝える声
翔平 「岡ちゃん、そこだ。あっ、あー。……ちょっと山口さん、さっきから何をごそごそしてるの?」
山口 「翔平さんに、コーヒー入れてあげようと思って。紙コップ持ってきたはずなんだけど」
翔平 「俺はいい。お茶買ってきてる。それより、彼を応援すれば。」
山口 「わかってる。けど、コーヒー」
翔平 (無視して)「そこだ! 岡村純一ィ、落ち着いてぇ。慎重にサーブ……あっ悔しい!」
SE ラリーの音、力む声
翔平 「岡ちゃん、諦めるな」
山口 「ああっ、コーヒーこぼれる。翔平さんごめん、コップ持ってて。」
翔平 「ねえ山口さん。俺は岡ちゃんに負けて、戦力からもれた。だから俺の分も岡ちゃんに勝ってもらいたい。」
山口 「翔平さんの気持わかるけど、彼が地区大会に選抜されただけでもラッキーに思ってる。」
翔平 「……あっ、そう、いいよ。その調子。うーん惜しい。残念、初戦で敗退かあ。」
山口 「あのお守りのご利益も、これが限界でしょ。」
翔平 (不機嫌に)「いい加減にしろよ。」
SE 帰り道、往来の騒音
翔平 「岡ちゃん、お疲れ。いいとこまでいったのに。南大の青山選手は、決勝戦の常連だからな…。」
岡村 「いや、拾えて当り前のボールまでこぼしてしまって、情けない限り。」
山口 「ねえ翔平さん、私、ふと思ったんだけど、もしかして……私があのことを翔平さんに話したでしょ。だから翔平さん、純一さんに負けて」
岡村 「恵美、あのことって何だ。」
山口 「い、いや、もし、今日の試合、純一さんじゃなくて翔平さんが出てたら、結果がどうかなって。」
翔平 「山口さん、勝負に、もしはない。それから、前にも言ったけど、俺のことを名前で呼ぶのやめてくれないか。」
山口 「どうして? 翔平さんは、岡ちゃんの親友だから、私も親しいのに。」
翔平 「俺は、女子から、あんまり馴れ馴れしくされるの、好きじゃない。」
岡村 「翔平はそういうやつなんだ。俺たちは自転車預けてるから、恵美はここから電車で帰って。応援ありがとう。」
山口 「純ちゃん、お茶でもして帰ろうよ。」
岡村 「疲れてるから。」
山口 「そうお。(嫌味に)今日の試合に出られたこと、翔平さん、いや倉嶋さんに感謝しなきゃね。」
SE 自転車の軋む音、車が走っている音など、冷え冷えした雰囲気。
岡村 「恵美との仲も今日で終わりだ。」
翔平 「俺には関係ないな。岡ちゃん、明日からまたテニス楽しもう。じゃな」。
岡村 「OK!」(低く、呟くように)「翔平、ありがと!」
翔平 (遠くから)「岡ちゃん、朝練、遅れるな。」
SE 自転車をこぐ音が響く。時おり、吹っ切ったように爽やかなベルの音
了