受講生の作品
受講生の作品
ひばりの声が降ってくる。兵庫県加西市にある神戸大学の食資源教育研究センター。泥まみれで田植えするのは農学部の生徒たち。普通の田植えではない。教員指導のもと、酒米や食用の苗を4000種以上も植えるのだ。
実際の農業に役立つ品種改良や、市場に出荷できる品質が目標なので、皆真剣だ。お気楽体験気分で訪れた私は、気後れしながら田を見渡す。
男女20人ほどが、プールのコース分けのように張られたロープに沿って、品種ごとにていねいに手植えしていく。コシヒカリなどの見知った銘柄以外に、Fの何番と書かれた札がずらりと並ぶ。先生のご厚意で「失敗してもいいエリア」で植えさせてもらった。
苗は細くて短く、なんとも頼りないが、どれも未知の可能性を秘めた米の子だ。緩い土にまっすぐ挿すのは意外と難しい。吸い付く泥に足をつかまれ、宙をかいてあぜ道に尻餅。学生に笑われた。
敷地内には昭和18年、優秀なパイロット育成のために造られた鶉野(うずらの)飛行場跡がある。全国から集められた17歳から25歳までの若者たちが、ここで飛行訓練を受けた後、各航空隊へ配属され、その多くは空に散った。
平成の今、同じ年頃の若者たちは「未来の米」を育てる。時代時代の礎があって、次代が紡がれていく。
帰り際、学生たちに声をかけた。「日本野農業を下支えしてね」「はーい。」明るい笑顔が頼もしい。
上空では小型飛行機のようなひばりが、歌いながらホバリングしていた。